東京メトロ千代田線の湯島駅を降りて大通りをしばらく歩いた先、蔦に覆われた外観の前で足が止まる。扉の向こうは見えない。ほんの少しだけ隙間があるようにも見えるが、店内の様子はほとんど分からない。手をかけて押し開けると、空気が一段低くなる。薄暗い店内の奥で、白髪のマスターが無言のまま鉄板に向かっている。ジュウ、と肉が焼ける音が途切れず続き、同時に甘く焦げた脂の香りが鼻にまとわりつく。席に座る。水が置かれる。何も注文していない。そのまま時間だけが流れる。次の瞬間、何の前触れもなく、目の前にカレーが置かれた。
湯島の路地裏、蔦に覆われた外観に足が止まる
壁を覆い尽くすように伸びた蔦。その隙間に、店の輪郭がかろうじて見える。オレンジ色の看板は、意識していなければ通り過ぎてしまう位置にある。扉はわずかに重く、押し込むようにして開ける必要があった。振り返ると、蔦に囲まれた入口が外界との境界のように見える。

薄暗い店内、肉の焼ける音と香りが支配している
店内は照明が落とされ、輪郭がゆっくりと浮かび上がる程度の明るさ。中央に埋め込まれた鉄板から、一定のリズムで音が立ち上がる。ジュウ、ジュウ、と油が弾けるたびに、焦げた肉の香りが空気に広がる。白髪のマスターは視線を上げず、手元だけで肉を返し続けている。言葉はないが、音と香りだけで空間が満たされていく。

席に着くと、注文していないのにカレーが置かれた
11時15分に入店し、席に座る。メニューに目を落とす前に、サラダが置かれた。葉の水分が光を反射している。11時20分、まだ何も伝えていない。5分後、鉄板の音が一段高くなる。肉が焼かれる気配が濃くなる。11時30分、皿が音もなく置かれた。湯気をまとったカレー。その上に、角切りの肉がいくつも並んでいる。注文していない。だが、もう目の前にある。

一口目、カレーの中にしっかりと“肉の気配”がある
スプーンを入れると、表面の温度が指先に伝わる。ゆっくりとすくい上げ、口に運ぶ。最初に感じるのは、やわらかく広がる熱と、丸い香り。辛さは舌の奥に控えめに残り、前には出てこない。咀嚼するほどに、奥から脂のようなコクがじわりと滲み出てくる。飲み込んだあと、鼻の奥にかすかにスパイスが残る。その奥に、鉄板で焼かれた肉の香りが重なる。

ゴロッとしたステーキが、カレーの主役を奪いにくる
次に肉を口に入れる。表面は軽く焼かれ、中は熱を保ったまま柔らかい。歯を入れた瞬間、抵抗がほとんどなく、そのままほどけるように崩れる。噛むたびに、肉の旨味が舌の上に広がり、遅れて鉄板の香りが追いかけてくる。カレーと一緒に口に含むと、ルーがソースのように絡み、肉の脂と混ざり合う。口の中で温度と油分が一体になり、ひとつの塊としてまとまる。

付け合わせのサラダで一度リセットされる
合間にサラダを挟む。冷えた葉が舌に触れ、さっきまでの熱が引いていく。シャキッとした歯応えで、口の中の油分が切り替わる。ドレッシングの酸味が軽く残り、次の一口への準備が整う。

食べ進めるほどに、カレーと肉の距離が縮まっていく
最初は分かれていた印象のカレーと肉が、食べ進めるうちに境界を失っていく。ルーが肉の表面にまとわりつき、肉汁がカレーに溶け込む。スプーンでまとめてすくう回数が増える。噛むごとに、香りと温度が重なり合い、最初とは違う一体感が生まれる。皿の中で、二つの要素が同じ速度で減っていく。
気づけば皿は空、食後にコーヒーが置かれる
気づいたときには、皿の底が見えていた。11時55分、カップが静かに置かれる。黒い液体から、わずかに苦味の香りが立ち上がる。一口含むと、舌に残っていたスパイスと重なり、奥で混ざる。苦味の向こう側に、さっきまでの肉とカレーの余韻がかすかに残る。椅子に深く体を預け、そのまましばらく動けなくなる。

ステーキ屋で、なぜかカレーが記憶に残った
鉄板で焼かれる肉の音と香り。その中心にいるはずのステーキではなく、気づけば記憶の軸はカレーに移っていた。だが、そのカレーは単体では成立しない。肉と一緒に口に入れたときにだけ形を持つ。注文していないのに始まり、いつの間にか終わっている一連の流れ。その違和感ごと、体に残る。
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ステーキしのだ 湯島
【住所】〒113-0034 東京都文京区湯島4丁目5−8
【最寄り駅】:東京メトロ千代田線「湯島駅」から徒歩6分。 車通りの多い大きな道路に面した所に店を構える。 Googleマップで場所を見る
このブログについて
このブログでは、チェーン店では味わえない、その街ならではの魅力が詰まったグルメ情報を中心に発信しています。首都圏を中心に、個人経営の飲食店や地域に根付いた名店など、Web上では見つけにくい飲食店を実際に訪問し、実食をもとに率直な感想をまとめています。
紹介している店舗はすべて筆者自身が足を運び、料理の味わいだけでなく、店の雰囲気や立地、訪問時の印象まで含めて記録しています。実体験に基づいた情報を大切にしているため、初めて訪れる方でも参考にしやすい内容を心がけています。
いつもの外食から一歩踏み出し、新しい味や店との出会いを楽しみたい方に向けて、非チェーンの飲食店を中心に紹介しています。本ブログが、日々の食事選びや外出のきっかけづくりに少しでも役立てば幸いです。
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