その日は大井町での飲み会の帰りだった。賑やかな居酒屋をいくつかはしごして、少し酔いが回った頭で「今日は派手な〆じゃなく、ちゃんとした中華そばが食べたいな」と思ったのがきっかけだ。大井町駅周辺は選択肢が多いが、チェーンの名前が並ぶ通りを自然と避け、平和小路の少し暗がりに足が向いた。そこで目に入ったのが、控えめな看板を掲げる「麺壱 吉兆」だった。

白河ラーメン系の中華そば。東京ではあまり見かけないその言葉に、ラーメン好きとしての好奇心が刺激された。派手な外観も、客引きの声もない。ただ、長年この場所で暖簾を守ってきたであろう空気が漂っている。今日はここだな、と迷いはなかった。
大井町の平和小路に佇む小さな中華そば店「麺壱 吉兆」の外観

JR京浜東北線・大井町駅から歩いて3〜5分ほど。平和小路の飲食店街に入ると、ネオンと雑多な看板が続く中で、「麺壱 吉兆」は驚くほど静かにそこにある。木の引き戸を開けると、店内はカウンターのみで7席ほど。決して広くはないが、窮屈さは感じない。むしろ、この距離感が心地いい。チェーン店では決して味わえない、作り手の呼吸がそのまま客席に届くような空間だ。
今回注文したのはワンタンメン|琥珀色スープの第一印象
この日選んだのはワンタンメン。カウンター越しに差し出された一杯は、思わず見とれてしまうほど澄んだ琥珀色のスープが印象的だった。表面に浮かぶ油は控えめで、湯気と一緒に立ち上る香りが、鼻腔をゆっくりとくすぐる。醤油の香ばしさの奥に、鶏の優しい甘みがある。

丼の中央にはナルト、周囲を囲むようにチャーシューとワンタン。いかにも“中華そばの王道”という顔つきだが、どこか凛とした佇まいがある。派手さはないが、長く愛される理由が見た目から伝わってくる。
鶏ベース醤油スープの味わい|優しく、しかし芯がある
まずはレンゲでスープを一口。鶏の旨みが主体の醤油スープは、口当たりがとても優しい。まろやかで、角がない。それでいて、ぼやけた印象は一切なく、醤油のコクと香ばしさがしっかりと芯を作っている。

飲み進めると、ふわっと魚介のニュアンスも顔を出す。主張しすぎず、あくまで脇役として全体を支えている感じだ。後味は驚くほどすっきりしていて、飲み会後の〆にも重さを感じさせない。どこか昭和の食堂を思わせる懐かしさがあり、「こういう中華そばを求めてたんだよな」と心の中で頷いてしまった。
青竹平打ち縮れ麺の存在感|もちっと、ぷるっと
麺を箸で持ち上げた瞬間、その不規則な縮れが目に入る。青竹を使って伸ばす伝統的な平打ち麺は、いわゆる“ピロピロ系”。口に運ぶと、もちもちとした弾力と、ぷるっとした食感が同時に楽しめる。

加水率が高めで、噛むたびに小麦の甘みがじわっと広がるのも印象的だ。縮れた麺がスープをしっかり持ち上げてくれるので、一口ごとにスープとの一体感がある。派手な改良を加えず、昔ながらの製法を大切にしているからこそ出せるバランスだと思う。
チャーシューの味わい|赤身主体で香ばしい
チャーシューは脂身控えめで、赤身がしっかりしたタイプ。箸で持つとほどよい弾力があり、噛むと肉の旨みが素直に伝わってくる。炭火焼き、もしくは燻製を思わせるような香ばしさがあり、スープの優しさの中で良いアクセントになっている。

こってり系が好きな人には物足りなく感じるかもしれないが、この中華そばにはこのチャーシューが正解だと思える。全体の調和を壊さず、最後まで飽きずに食べさせてくれる。
ワンタンの味わい|麺とは違う、小麦の楽しみ
茹でたてのワンタンは、皮がとにかくなめらか。口に入れた瞬間、小麦の香りがふわっと広がる。麺とはまた違った食感で、つるんとした喉越しが楽しい。中の餡も主張しすぎず、スープと一緒に食べることで完成する設計だ。

ワンタンが入ることで、一杯の中にリズムが生まれる。麺、スープ、ワンタン、それぞれの役割が明確で、食べ進めるほどに完成度の高さを感じる。
東京で本格的な白河ラーメンが食べられる店は?
「東京で白河ラーメンが食べられる店は?」と聞かれたら、迷わず大井町の「麺壱 吉兆」を挙げたい。観光向けでも、話題先行でもない。ただ、白河中華そばという文化を、東京の一角で静かに、真摯に守り続けている。そんな一杯だ。
総評|気づけばスープをほぼ完飲していた理由
食べ終わる頃、丼の底にはほとんどスープが残っていなかった。無意識にレンゲを動かしていた自分に気づき、この一杯がどれだけ心地よかったかを実感する。奇をてらわず、素材と技術で勝負する。その姿勢が、味にも空気にも表れている。
大井町でランチを探している人、飲み会後の〆に優しい一杯を求めている人、そしてチェーンではない小さな店との出会いを求めている人に、そっと勧めたい。「麺壱 吉兆」は、派手さはないが、確実に記憶に残る中華そばだった。
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麺壱 吉兆 大井町店
【住所】〒140-0011 東京都品川区東大井5丁目6−6
【最寄り駅】:京浜東北線「大井町駅」から徒歩3分。 飲み屋街の一角に店を構える。 Googleマップで場所を見る
このブログについて
このブログでは、チェーン店では味わえない、その街ならではの魅力が詰まったグルメ情報を中心に発信しています。首都圏を中心に、個人経営の飲食店や地域に根付いた名店など、Web上では見つけにくい飲食店を実際に訪問し、実食をもとに率直な感想をまとめています。
紹介している店舗はすべて筆者自身が足を運び、料理の味わいだけでなく、店の雰囲気や立地、訪問時の印象まで含めて記録しています。実体験に基づいた情報を大切にしているため、初めて訪れる方でも参考にしやすい内容を心がけています。
いつもの外食から一歩踏み出し、新しい味や店との出会いを楽しみたい方に向けて、非チェーンの飲食店を中心に紹介しています。本ブログが、日々の食事選びや外出のきっかけづくりに少しでも役立てば幸いです。
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