2026年5月6日、ゴールデンウィーク終盤。キャロットタワー内のシアタートラムで友人が舞台に立つと聞き、三軒茶屋へ向かった。終演後、そのまま仲間6人で小さな打ち上げをする流れになり、以前からGoogleマップに保存していた三軒茶屋の大衆酒場「赤星」へ電話をかけた。急な来店にもかかわらず「5分ほどで入れます」と返ってきた瞬間、金てから来店する日を待ち侘びていた酒場に向かう足取りが一気に軽くなった。

17時40分に入店。厨房を囲むコの字カウンターの熱気が近い。テーブル席との距離も狭く、肩が触れそうなほど詰まった空間なのに、不思議と圧迫感はない。ステンドグラスの光と木の色味が混ざり、昭和酒場というより“ネオノスタルジック酒場”と呼びたくなる空気感だった。20〜30代中心の客層で、カップルやグループ客が多い。店員を呼ぶとすぐ反応が返ってくる手際の良さも印象的だった。
正直、最初は店の雰囲気で人気を集めているタイプの三軒茶屋居酒屋かと思っていた。だが、実際に料理を口へ運び始めると、その印象はかなり早い段階で崩れた。特に名物の鶏の唐揚げは、この日の流れそのものを支配する存在だった。
パク鶏ーで舌が熱を帯びる

最初に届いたのは「パク鶏ー」。皿がテーブルへ置かれた瞬間、よだれ鶏系の甘辛ダレの匂いが先に立ち、その後ろから青い香草感が追いかけてきた。箸を入れると表面に絡んだタレがゆっくり落ち、口へ運ぶ前から唇の周りに辛味の気配が残る。
鶏肉は冷たすぎず、舌の上でゆっくり温度が広がる。タレの油分が舌の中央にまとわりついたあと、後味でパクチーの香りが鼻へ抜けた。辛味だけで押し切らず、香草感で一度空気を軽くする流れがある。ビールを流し込むと喉の奥で辛味がもう一段立ち上がり、自然と次の一口を探していた。
三軒茶屋の居酒屋らしい雑多な熱量の中で、この皿は酒を進ませるための導線として機能していた。まだ序盤なのに、口の中にはすでに甘辛ダレの油と香草の余韻が残り始めていた。
豚角煮味玉付が油を蓄積させる

パク鶏ーの辛味が舌の端に残った状態で、次に現れたのが豚角煮味玉付だった。黒く煮えた表面に照明が反射し、箸を入れた瞬間に脂が崩れる。肉を持ち上げるだけで皿に甘い香りが広がり、味玉の断面には茶色い煮汁が芯まで染み込んでいた。
口へ入れると脂の甘みが舌の裏側へ広がる。濃い味なのに重く落ち切らず、後半で醤油の輪郭が立ち上がる。味玉も黄身までしっかり染みていて、噛むたびに塩気が舌へ押し返される感覚があった。
ただ、この時点で身体はまだ何かを待っていた。油と甘辛さは積み重なっているのに、視界を変えるような一皿がまだ来ていない。赤星の“黒い煮込み感”は十分伝わったが、それ以上に「名物の唐揚げはどこまで来るのか」という期待が口内に残り続けていた。
鶏の唐揚げで卓上の視線が止まる

その空気が変わったのは、鶏の唐揚げが運ばれてきた瞬間だった。皿が木のテーブルへ置かれた時、低い音が一度鳴り、その直後に白い湯気が一気に立ち上がった。丸い。一般的な平たい唐揚げではなく、拳を縮めたような立体感がある。
揚げたての熱が近く、頬に当たる。隣の席の視線まで一瞬こちらへ向いた気がした。衣はゴツゴツしていないのに表面が乾いていて、油だけが光っている感じではない。箸で持ち上げると重量感があり、中に水分を抱え込んでいるのが分かる。
誰かが「これヤバそう」と小さく漏らし、その直後に全員の箸がほぼ同時に伸びた。皿の上から湯気が消え切る前に、空気が完全に唐揚げ中心へ寄っていた。
鶏の唐揚げで輪郭が固定される

一口目で最初に来たのは温度だった。熱が舌先ではなく上顎へ先に当たる。噛んだ瞬間、肉汁が舌の中央へ流れ、遅れて塩気が刺さる。衣はサクサクというより軽く砕ける感覚で、油が口の中にベタつかない。
見た目以上に鶏の旨味が濃い。丸い形の内部に水分を閉じ込めているからか、中までジューシーなのに外側だけが乾いた質感を保っている。酒場メシ特有のジャンク感はあるが、油の質が軽く、次の一個へすぐ手が伸びる。
この瞬間、パク鶏ーは酒を走らせる前座になり、豚角煮味玉付は“黒い煮込み感”の伏線へ変わった。卓上の中心が完全に唐揚げへ移った感覚がある。いい大人6人が自然にお代わりを頼んだ時点で、この日の主軸はもう確定していた。
焼きポテトサラダが油を受け止める

唐揚げの熱と肉汁がまだ唇に残る中で、焼きポテトサラダを口へ運ぶ。表面にはしっかり焼き目が付き、香ばしさが先に来る。中はねっとりしているのに、じゃがいもの輪郭は崩れ切っていない。ホクホク感も同時に残っていた。
普通のポテサラより酒に寄せた設計で、焼き目の風味が油を受け止める。唐揚げ後の口内を完全にリセットするタイプではなく、むしろ油を重ねながら香ばしさで方向を変える感覚に近い。
ただ、唐揚げの熱量が強すぎるせいか、視線を奪う力はそこまでではない。単体なら十分酒場グルメとして成立しているが、この日の流れでは“主役の横で仕事をする皿”という立ち位置だった。
肉豆腐が甘辛さで着地させる

最後に肉豆腐が置かれる。黒く濃い煮汁の中に豆腐が沈み、中央の卵黄だけが妙に鮮やかだった。箸で豆腐を割ると、芯まで染みた煮汁が断面から滲み出る。
口へ入れると、すき焼き風の甘辛さが舌へ広がる。唐揚げ後で油に慣れた身体でも、この塩気はしっかり残る。卵黄を崩した瞬間、一気に背徳感が増した。豆腐表面へ黄身が絡み、唇に甘い脂が残る。
ただ、唐揚げのような瞬発力とは違う。肉豆腐は温度がゆっくり落ちる料理で、卓上を支配するというより、飲み終わりへ向けて身体を沈ませる役割に近かった。実際かなり気に入った一皿だったが、それでも記憶の中心に残ったのは唐揚げの肉汁だった。
鶏の唐揚げ基準で再訪を考える

20時退店。6人でかなり飲み食いし、今回紹介した以外の料理も注文して1人6000円ほど。腹は完全に埋まっていたが、「また唐揚げを食べたい」という感覚だけが妙に残った。
もし次回行くなら、順番はほぼ変えないと思う。パク鶏ーで喉を開き、豚角煮で“黒い煮込み感”を入れてから、鶏の唐揚げへ入る流れが強かった。削るなら焼きポテトサラダかもしれないが、あの香ばしさが途中で入ることで酒場らしいジャンク感は確実に増していた。

三軒茶屋でワイワイ飲みたい人、コの字カウンターの熱量が好きな人、揚げたての鶏唐揚げで酒を進めたい人にはかなり刺さると思う。一方で、静かに飲みたい人や一人飲み中心の人には少し騒がしく感じる可能性がある。
それでも、三軒茶屋の大衆酒場で「まず唐揚げを頼め」と言われた時、この赤星の丸い唐揚げはかなり上位に入ってくる。次回は予約を入れたうえで、もう一度あの揚げたての熱量を正面から浴びに行きたい。
向いている人
・友人同士で賑やかに三茶飲みしたい人
・揚げたてで肉汁の強い鶏の唐揚げを探している人
・酒に合う濃い味の肉豆腐や酒場メシが好きな人
・ネオノスタルジックな三軒茶屋居酒屋を体感したい人
向いていない人
・静かにしっぽり飲みたい人
・一人飲み中心で落ち着いた空気を求める人
・油や塩気を控えめにしたい人
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赤星 三軒茶屋店
【住所】〒154-0004 東京都世田谷区太子堂2丁目23−5
【最寄り駅】:田園都市線「三軒茶屋駅」から徒歩4分。 三軒茶屋のメイン道路に面した飲み屋街の一角に店を構える。 Googleマップで場所を見る
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このブログでは、チェーン店では味わえない、その街ならではの魅力が詰まったグルメ情報を中心に発信しています。首都圏を中心に、個人経営の飲食店や地域に根付いた名店など、Web上では見つけにくい飲食店を実際に訪問し、実食をもとに率直な感想をまとめています。
紹介している店舗はすべて筆者自身が足を運び、料理の味わいだけでなく、店の雰囲気や立地、訪問時の印象まで含めて記録しています。実体験に基づいた情報を大切にしているため、初めて訪れる方でも参考にしやすい内容を心がけています。
いつもの外食から一歩踏み出し、新しい味や店との出会いを楽しみたい方に向けて、非チェーンの飲食店を中心に紹介しています。本ブログが、日々の食事選びや外出のきっかけづくりに少しでも役立てば幸いです。
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